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みつばちと日々のこと

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セイヨウミツバチと生態系への悪影響

少し前になりますが、6月にカフェ「グクルの森」で、養蜂の話をしてきました。

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会場の様子(頭にタオルを巻いているのが僕です)


僕は、沖縄島で動物の貴重種などを調査する、環境調査の仕事をしています。その傍らで、大好きな虫の知識を活かし自然保護につながることはないかと模索している中で、蜜蜂を飼い始め4年目になります。

養蜂家ってそもそも何だ?から始まり、沖縄の養蜂業界の内情や養蜂に使われている蜜蜂の種類、セイヨウミツバチは外来種であること、養蜂が及ぼす沖縄の生態系への悪影響まで、虫屋(※1)的養蜂の楽しみ方を交えつつ、僭越ながら話をさせていただきました。

グクルの森では「虫屋カフェ」という企画があり、何らかの虫に詳しい専門家がカフェマスター(講演者)となって話題を提供し、聞き手と質疑応答を交わしながら話を進め、しっぽりと虫の話を愉しむという素敵な会が催されています。皆、ひっそりと熱く机を囲んでいます(笑)

聞き手としては以前から参加させていただいていたのですが、演者としては初めての挑戦でした。聞き手の皆さんの多くは虫屋さんなので、よくある「ミツバチの不思議」みたいな話はやめようと臨んだ結果、先の様な話題となりました。

特に、養蜂業が及ぼす沖縄の在来生態系への悪影響については、生物多様性保護派の僕にとって自分の首をしめるような話題ではありますが、なにやら益虫のイメージばかりが先行しているように思えるセイヨウミツバチ(以下ミツバチ)のことを話すうえで、是非とも触れておきたいミツバチの「個性」でした。




昆虫調査などでフィールドに出ると、野生化したミツバチをたまに見かけます。また、他の生物屋さんから野生化したミツバチの観察話も聞きます。
外来種であるミツバチは、沖縄の他の在来の蜂に比べて1巣あたりの個体数が圧倒的に多く(大体5000~30000匹)、野生化したミツバチの巣は異様な迫力を放っています。他の生き物を寄せ付けない、ひとつの国のような印象を受けます(実際にはいろんな生き物が紛れ込むことがあって、ちょっと面白いのだが!)。
子供の頃からフィールドで馴染みのあるアシナガバチ類やハキリバチ類の巣からすると、やっぱり不自然な感じです。でも、そういった超大家族から成る社会性のある生活様式こそミツバチたちの長所で、長い進化の歴史の中で獲得した「個性」です。ミツバチたちは、故郷とははるか遠い土地で、精一杯生きているだけ。
養蜂を始めてみて実感したことは、養蜂・ミツバチは、人の管理の次第では、よく知られているような人にとっての良い事だけではなくて、自然にとってひいては人にとって「悪い影響」もあるということです。このことについて、実際に養蜂をしている側だからこそできる、改善に向けての活動があると思っています。まずは、一般の方にも知ってもらいたい、と思いどうしてもお話したかった次第です。
そして、虫屋的意見を伺いたいとも思いました。


沖縄には、生物の長い進化の歴史の中で、沖縄本島のやんばるやその周辺の島々で独自の進化を遂げ、地球上でここにしか見られない動植物がいます(固有種)。その中には、森の中の大木などにできた樹洞(木に開いた穴のこと。うろとも言う)の中で繁殖したり休息したりする種がいます。例えば、ノグチゲラ、リュウキュウコノハズク、ケナガネズミ、ヤンバルテナガコガネなどがそうです。


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やんばるのとあるイタジイの大木



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それにできた樹洞の内部


キツツキの仲間であるノグチゲラは、嘴で木をつついて穴を開け、その中で子育てをします。子育てに使った巣は、子が巣立った後、ずっと空き家のままで朽ちていくのではなく、ケナガネズミが住みついたり、フクロウ類が巣作りを始めたり、翌年再びノグチゲラが使ったりして再利用されることが知られています。ノグチゲラは、やんばる森の中で、他の生き物の住処である樹洞を提供してくれる重要な役割を果たしています(※2)。

そのノグチゲラの古巣(子育て後の巣)に、養蜂場から逃げ出したミツバチが入り込み、巣を造った事例が知られています。もともと閉鎖空間に巣を造る性質のあるミツバチからすれば、野外に逃げ出した場合、樹洞はこの上ない快適物件でしょう。ミツバチは一旦新居を構えるとどんどん巣を増築し、中や入口を蜂がびっしりと覆うまで増殖します。実際、この報告でも多数のミツバチが穴から溢れ出している画像がありました。こうなってしまうと、もう他の動物は樹洞の中に入ってこれません。しかも、ミツバチはそのまま冬を越して数年間居つくこともありますから、その間、他の動物はこの樹洞を利用できないことになります。

そもそも、ノグチゲラという鳥自体、個体数が400羽程度と少ない絶滅危惧種の鳥です。巣造りに使用される木も、胸高直径が30㎝以上のものが多く、そのような木は林齢が40年以上の古い森に多くあります。自然と樹洞ができるほど生育した木は、広いやんばるの森とはいえどもさらに希少です。
何万年という長い年月をかけて営まれてきた沖縄の野生の生き物たちの関係に、わずか数十年の新参者のミツバチが割り込んで阻害しているのです。

ミツバチが樹洞に巣を造る事はやんばるに限ったことではなく、中南部や離島でも確認されています(最近の確認は末吉公園)。市街地の端っこで、残された林で細々と生きているフクロウ類などからすれば、脅威的なことかもしれません。ただしアオバズクでは人工構造物で営巣する個体もいます。

それと、沖縄にはミツバチの野生化を抑制しうる、目立った天敵がいないことも危険な要素の一つです。
本土で、ミツバチ(在来種ニホンミツバチ除く)が野生化できない大きな理由の一つに、天敵オオスズメバチの存在があげられます。オオスズメバチは、集団でミツバチの巣を襲い、巣を全滅させることが知られています。沖縄にはオオスズメバチがいません。コガタスズメバチという種はいますが、僕の蜂場で観察しているかぎり、ミツバチを襲いはするものの、巣を全滅させるほどの襲撃はできない様子です。むしろ何匹かは返り討ちにあって死んでいます(近年セイヨウミツバチも蜂球を作ってスズメバチを殺すことが分かっています。ただしこちらは熱殺ではなく窒息殺)。


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ミツバチの巣の入り口付近に転がっているコガタスズメバチの死体


沖縄といくつか共通点のある小笠原諸島(固有種が多い、もともとミツバチがいない、天敵オオスズメバチがいないなど)の例でみると、在来生態系に対して次のような問題が現実に起こっているようです。

●外来(島外から持ち込まれた)のミツバチと、在来(もともと小笠原諸島にいる)のハナバチ類(ミツバチのように花を訪れる蜂)が花をめぐって競合している。

●競合している在来ハナバチ類を、同じく島外より持ち込まれて野生化したグリーンアノール(別名:アメリカカメレオン。トカゲの一種)が追い打ちをかけるようにどんどん食べている。ミツバチより、在来ハナバチ類を選んで食べている。食べつくされてほとんどいなくなった島もある(グリーンアノールが持ち込まれる以前は在来ハナバチ類とミツバチは互いの花の好みの違いからかろうじて共存できていた可能性もある)。

●在来ハナバチ類と比較してミツバチは、集団で暮らし効率重視で花蜜や花粉を集めるため、多く訪れる花とほとんど訪れない花がある。また、花粉の運び方にも偏りがあり、行動圏が広いことも特徴である。そのため、在来ハナバチ類がグリーンアノールに駆逐されて、ミツバチによる送粉(植物間への授粉)が主になってしまっている島では、在来植物の繁殖(授粉)の成功率の低下とともに、固有種同士の雑種も発見されているなど、在来植物の繁殖に様々な悪影響を及ぼしている。今後、在来植物の減衰や、ミツバチに合わせた花の形態変化などが起きてくることが示唆されている。

●とはいえ、在来ハナバチ類(在来送粉者)がいなくなってしまった島では送粉をミツバチに頼ることになり、いきなりミツバチを排除する、ではすまなくなってきている。

●オオスズメバチがいないので、一部の島でミツバチの野生化が確認されている。


など。
小笠原諸島は海洋島(大陸と陸続きになったことがない島)なので、沖縄とは必ずしも比較できない部分もあるかもしれませんが、ミツバチのように集団で暮らすハナバチ類がもともといなかったという点では同じです。
ただし、在来植物への影響は、沖縄はシロノセンダングサやシロツメグサ(クローバー)、アメリカハマグルマなど、蜜源となる外来植物の宝庫ですから、ある程度相殺されているような気がします(ちなみに県花であるデイゴもマレー半島やインド原産の外来植物です)。むしろ、植物間でニッチ(生態的なポジション)を巡って競合が起こり、在来植物が減衰することの方が想像しやすいです。



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沖縄の代表的外来植物、シロノセンダングサ(タチアワユキセンダングサやサシグサなど呼び名は色々)


いずれにしても、ミツバチのように「飼育ケース(巣箱)と野外を自由に行き来する」「集団で花に訪れる」「よく逃げ出す」「野外では主に樹洞に営巣する」というとても個性的な習性をもつ昆虫を飼育している場合、地域の環境や生物相をもっと意識しないと危ないのでは?と強く思いました。つまり、養蜂をしている(またはしようとしている)その地域の自然環境の特色はなんなのか?、そこで暮らしている野生生物の特徴はなにか?、それらはお互いにどんな結びつきをしているのか?、そこでミツバチを放った場合どんな影響が予想されるのか?、飼ってて大丈夫なのか、飼うならどう飼うべきか。ミツバチという昆虫を飼うということ。柵で囲って飼う家畜とは意味が違うこと。責任と、ある程度危機感を持って臨んだ方がいい思いました。特に、やんばるに生息する固有種たちは樹洞を利用するものも少なくありません。小笠原諸島とは違った危険性をはらんでいる可能性があります(ちなみに、沖縄にもグリーンアノールは侵入しています。那覇空港の付近など、一部地域で野生化しています)。

自分を含めてのことなんですが、養蜂家は分蜂(巣別れのこと。そのまま逃げられることが多い)させてしまうことについて、緊張感が足りないように思います。分蜂させてしまって「やっちゃった~」と思ったとしても、それは蜂に逃げられてしまって財産損失もったいないの「やっちゃった~」のほうが多かったのではないでしょうか。


僕たちだって分蜂させてしまったことは何度かあります。こうしたら分蜂しないのでは、と試行錯誤しながら実践しつつも、分蜂させてしまった群がいくつかあります。分蜂した蜂の塊を見つける度に(大体は元いた巣箱の近くの木の枝などに一旦留まっていたりする)なんとか回収してきましたが、分蜂したことにも気づかず、回収できなかった群もあると思います。こういったことは、養蜂家として完全に「ミス」だと認識した方がいいと思いました。実際、分蜂は管理不足も大きな要因です。今後、分蜂させない技術も確立させないといけません。

やんばるに巣箱を設置する時は、分蜂させないように特に慎重に配置します。配置する群数は、こまめに管理ができる範囲の5群以下とし、設置期間も期限を決めて短期間だけ設置しています。2・3日にいっぺんは様子を見に行きますので、中部とやんばるを行ったり来たりで大変です。

そんなことも、小規模でこぢんまりと養蜂している者だからできることかも知れません。僕たちのスタイルの養蜂ではお金にならない、と早い段階であきらめ、養蜂の価値を「自然に興味を持つきっかけ」として見出した甘ちゃん養蜂家だからかもしれません。でも、だからこそやるべきこともあります。利益目線だけではなく、昆虫目線で養蜂やみつばちを見てしまう僕は、そこで見て感じたことを人に伝えるために養蜂をしたのだと思います。

セイヨウミツバチは、「世界の至る所で外来種であること」、「植物への授粉は人間の作物に対しては大きく貢献しているけど、本来、在来植物に対しては在来動物で足りていること」、「基本的に外来種は、在来生態系への良い影響は無いこと」など、養蜂家はもちろんのこと、ミツバチに対しての一般の方のイメージも、益虫としての良い所だけでなく外来種としての悪い所もひっくるめて深まればいいなと思います。

現在、沖縄を周辺の島々とともに世界遺産に登録しようという動きがあります。固有の動植物が多く生息し豊かな自然環境が残されている、と認識されているからです。登録されるされないにかかわらず、地球の長い歴史の生き証人たちが目立って残されている沖縄は、自分と他の生き物の関係を考えるうえでも価値の高いかけがえのないものだと思います。
周りの人に、「これはすごい、大事だ」と言われる前に、住んでいる現地人がその価値に気づけたら素敵です。
また、内地と比較して一年中あたたかい沖縄では、ミツバチを増やすうえで好都合な場所です。増やしたミツバチを、イチゴなどのハウス栽培の作物の授粉に役立てるため、巣箱ごと内地に出荷する事業が沖縄では盛んです。沖縄県もこれを推進すべく動いています。事業の拡大に伴ってミツバチが今後増えていくことを考えると、ますます養蜂家の責任は重いものです。
商売のためだけにみつばちを飼う養蜂は、今日の時代になじまないと思います。セイヨウミツバチが増えすぎた結果こうなってしまった、というモデル島にならないために。
僕たち県内養蜂家の意識改革は必要不可欠だと思います。



虫屋カフェが終わって、聞き手だったある虫屋さんが一言「結局、養蜂家が悪い」とこぼしたそうです。全く、真摯な意見です。少なくともミツバチは悪くない。この一言を、胸に留めておこうと思います。

最後に、話す機会を与えてくださったカフェグクルの森の石堂民栄さん、沖縄昆虫同好会の宮城秋乃さん、そして話を聞きに来ていただいた方々、本当にありがとうございました。




※1 虫屋
虫を捕まえたり、観察したり、飼育したり、食べたり、虫のことを何か調べたり書いたりするのが大好きで、日々虫の事が気になってしょうがない哀れで幸せな人のことを虫屋という。特に蝶々が好きなら「チョウ屋」、カミキリムシが好きなら「カミキリ屋」などと細分して指すこともある。ちなみに僕は「サシガメ屋」。

※2 樹洞のできかた、ノグチゲラ
樹洞ができるプロセスとして、ほかに沖縄らしいのが、台風によるきっかけが知られている。台風で木の枝が折れ、そこから腐食が進んで樹洞になる、といったもの。台風による適度な「かちゃー」は森にも海にも良いということか。また、木自体が生育の過程で樹洞を形成していくこともある。自然に樹洞ができやすい樹種もあるのだろうし、病気によってできることもあるだろう。
ノグチゲラは、種の保存法で国内希少野生動植物に、文化財保護法で国の特別天然記念物に指定されている。また、生息地の一つである東村では保護条例も制定されている。個体数は、推定わずか400羽程度(1990年代調査)と少ない。沖縄県の県鳥。 



参考文献
「外来種セイヨウミツバチによるノグチゲラの古巣利用」小高信彦、森林総合研究所九州支所年報22:24、2010年 
「小笠原における侵略的外来種の生態系影響とその順応的管理にむけて」大河内勇、国際環境研究協会 地球環境Vol.14 №1 3-8pp、2009年
「小笠原諸島における送粉系撹乱の現状とその管理戦略」安部哲人、国際環境研究協会 地球環境Vol.14 №1 47-55pp、2009年
「ノグチゲラ~やんばるの森に暮らすキツツキ~」環境省やんばる野生生物保護センター制作・小高信彦監修、2007年
「環境破壊によるセイヨウミツバチの繁殖」平野祐己
「小笠原養蜂の歴史~小笠原エコツーリズムリゾート」URL:http://take-na.com/apiculture/index.html
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by archae88 | 2014-10-12 01:30 | みつばち | Comments(2)