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アルカエの日々のこと

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みつばちで花粉交配

世界で作られている人間の全食糧のうち、その35%はみつばちを主体とした花粉媒介動物の授粉によって生産されている、という報告があります。
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◆おいしいマンゴーの生産にもみつばちの授粉が一役かっています



果物や野菜などの農産物は、農産物である以前に植物なので、人が食べる部分がいわゆる『実』である場合、その元となる花の受粉が欠かせません。

それを、膨大な人数が食べる分だけ受粉させるとなると、人の手でやっていたのでは到底追いつかないため、みつばちの<花を訪れ蜜や花粉を集める生態>を利用してみつばちに授粉してもらいます。

実際には、ハウス栽培であれば目当ての作物が栽培されているビニールハウスの中にみつばちをコロニー(巣箱)ごと引っ越しさせて、花が咲いている期間中、ハウスの中で生活させます。
ハウスの中にはその作物の花しか栄養源がないので、みつばちは花を訪れることを余儀なくされます。

ビニールで外界と隔絶されている以上、ハウスの中は非自然的な環境であることに変わりはありません。
ハウス内に導入されてしばらくは、みつばちたちは右往左往して自らのおかれた状況の把握に努めます。

立体的な空間の広さに制限があって、閉鎖された風が途切れた世界に戸惑うのでしょう。ビニールの隙間にひっかかたり、困惑したように一箇所に執着する個体も出てきます。

単一の花粉に依存するのもみつばちの健康上本当はよくありません。花によって栄養が違っていて、メインはあれど色々な花を訪れることでみつばちたちは元気に生きています。
授粉期間中の一時期だから、なんとかコロニーを維持していますが、これがあと数か月も続くようであれば、そのコロニーは滅びてしまいます。

そういった様々な障害によって、みつばちのハウス内授粉の裏では、実はかなりの数のみつばちが命を落としています。

それでも、このみつばちの力を借りたいのです。

何千万年もそうしてきたハナバチ類の仕事は、人のそれに比べると迅速かつ的確、丁寧かつ自然の業です。

だから、力を借りる、飼育する側としては、みつばちができるだけ元気に、また最大限能力を発揮できるようにフォローしないといけません。

過酷な状況に耐えうる強いコロニーを選別し、導入前にたっぷり花粉を溜めた板を持たせ、必要とあれば砂糖水を非常食として与えます。高温になりがちなハウス内での巣箱への日よけの設置も必要です。

また、お借り頂く農家の方にも、留意して頂くことはあります。
みつばちの訪花活動は25℃ぐらいが最も活発で、ハウス内の温度が30℃以上になると授粉効率が悪くなります。
そこで、できるだけハウス内を換気し、気温上昇の抑制に協力して頂くことがあります。

作物に農薬を使う場合にも、薬が有効期間中はみつばちをハウス外に出していただくことと、なるべくみつばちに害の少ない農薬の使用を検討して頂くなど、お願いさせて頂くことがあります。
授粉効率の悪化は奇形果になることにもつながりますし、みつばちの減少は受粉率の低下に直結しますので、農家の方にとっても虫(無視)できないものです。

そうしてこうして、花が咲き終わる頃には授粉が完了しているわけです。

みつばちは、自らの巣の食糧確保のために花から花へ蜜や花粉を求めて移動しているにすぎないのですが、花粉もみつばちの体にくっついて移動するので、それが結果的に作物の授粉になっています。
約千数百~数千匹(※1)というみつばちが毎日ひっきりなしに次から次へと花を訪れるから、膨大な数の花の授粉も可能なわけです。

その恩恵を身近で感じられるものにイチゴがあります。
クリスマスケーキでおいちく食べたイチゴは、みつばちの授粉なしでは食卓に上がることはほぼ無いと言われています。
ほかにも、メロンやスイカ、アーモンドなど様々な農産物の生産も、みつばちの授粉なしでは安定供給は望めないようです。
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◆みつばちの花粉交配の勉強のために訪れた本土のイチゴ狩りハウス。みつばちたちの働きでりっぱなイチゴが沢山なっていました



意外なところでは、牛肉やチーズなどの乳製品も同じといわれています。世界に供給されるほどの数の牛たちを育てるには、毎日大量の飼料が必要です。その飼料となる草本などの授粉をみつばちが行っているというのです(もちろんみつばちだけではないでしょうけど)。

沖縄では、マンゴー、カボチャ、スイカなどの授粉にみつばちが使われています。
時期になると、これらの農産物が地域のファーマーズマーケットを賑わしているのはみつばちの仕業がほとんどです。

養蜂業といえば、『はちみつ、みつろう、ローヤルゼリー、プロポリス』が注目されがちですが、実は生産額は『花粉交配による野菜や果物などの生産物』がメイン(※2)です。

沖縄も例外ではなくて、温暖な気候が年間を通してみつばちの繁殖に適していることなどから、むしろ花粉交配用のみつばちの生産に関して言えば、日本一注目されている場所といっていいくらいです。

身の回りの先輩養蜂家たちも、本土に向けてはちみつではなくみつばちそのものを販売・出荷されて生計を立てている方が多いです。

こうした花粉交配用のみつばちは、使用者である施設園芸農家様に向けて飼育管理マニュアルも作られていて、インターネットから自由にダウンロードできるようになっています。

マニュアルには、ハウス内でみつばちを飼う際の詳しい方法が書かれていますが、『ハウスで利用する場合の留意事項』の章の最後、『利用期間の終了後、みつばちが残っている残っていないにかかわらず、伝染病の感染源になるのを防ぐ目的で、必ず焼却処分します』と書かれています。

花粉交配用に購入したみつばちはほったらかしにして、不衛生になったりするなどして伝染病の発生源にならないよう、授粉させた後は巣ごと燃やして殺処分しましょう、ということです。
厳しい処遇ですが、下手に放置して伝染病を広げてしまって、地域レベル、県レベルで養蜂場ごとみつばちを焼却処分する事態になるよりはまし、というわけです。
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◆年に一回の伝染病検査。市の職員と家畜保健所の職員が検査しに来ます



でも、必死に生きようとしたみつばちを、用が済んだら燃やしてしまうというのは、想像するとちょっと切ないです。

焼却処分しなかったとしてもハウス外に放置し続けていれば、やがてみつばちたちは近隣の林に逃去し野生化するでしょう。そうなると、伝染病蔓延の恐れはもちろん、その地域の在来生態系にとっても悪影響となりかねません。

何より、せっかく良い虫のみつばちたちがもったいないです。殺さずに済むのならそれにこしたことはありません。

花粉交配用みつばちの販売事業において利益を第一に考えた場合、みつばちをとにかくどんどん増やしてじゃんじゃん販売したほうがいいことはわかります。
言い方が悪いのでみつばちに知れたら刺されそうですが、再利用するのは利率が低いのでどんどん消費(死)してもらって売る方にシフトしているわけです。

でも、みつばちがなるべく死なないように管理し、なんとか生き延びたコロニーはちゃんとケアすればまた働いてもらえるぐらい元気になりますし、さらには分家してコロニーの数も増えます。
長い目で見た場合、結果的にこちらのほうがより『みつばちに長くしっかりと働いてもらえる方法』のような気がします。
これも刺されそうです。明日の内検で刺されそうですね。

それに、県外にみつばちを出荷する場合、みつばちに抗生剤を投与することが義務付けられています。先に述べました伝染病予防の観点からです。
僕たちのみつばちには、これまでもこれからも農薬や抗生剤などを使わずに育てていくので、そういう部分でもなじまないやり方です。
そういう部分について書いています。よろしければご覧になってください→◆無農薬のはちみつ

だから、みつばちを売りっぱなしにするのではなくて、貸し出しという形でこのみつばちの力を借りることにしました。
それを、手の届く範囲の沖縄県内に限定して行っていきます。使い捨て、使い殺しではなくて、みつばちの力を活かしてやりたいです。

刺されたら痛いし、怒らせたら大変だし、かなり恐くてあまり可愛いとは思わないけど、いつまでも見ていてあきのこないこの素敵な虫には、色々なことに気づかせてくれた恩があります。


冒頭でも触れましたが、世界で作られる人間の食糧のうちの約1/3をみつばちたちが作っているそうです。

でも、世界で作られる人間の食糧のうち、約1/3は食べられずに捨てられている、という報告もあります。

せっかく、虫たちに働いてもらったのに、働いてもらったあとには泣く泣く?焼き払って処分したのに。
人間は、作ってもらった食べ物を食べもせずに全部捨てているなんて。
これが本当なら、いよいよ浮かばれませんね。

みつばちの恩恵に、僕は素直に「ありがとう」と思えないのは、自分を含め身の回りの『無駄』をひしひしと感じているから、なんだか後ろめたいからかもしれません。
がんばっているみつばちを見ると、ありがとうより「ごめんなー」と言いたくなります。

それにしても虫の能力ってすごいですね。


※1
外勤蜂(外に出かけて蜜や花粉を集めてくる役目のハチ)の割合は、巣箱の中にいる総個体数の15~30%といわれている。アルカエの貸出し巣箱の最小単位は約八千匹(約二千匹の巣板×4)なので、1200~2400個体ぐらいの外勤蜂が授粉を行うことになる。

※2
みつばちの生産額(みつばちが直接・間接的に生産したものの金額)約3500億円のうち、70~175億円ぐらいがはちみつ、ローヤルゼリー、プロポリスなど、その他3325億円以上が花粉交配による野菜や果物などの生産物、といわれている。




アルカエのみつばちの貸出しに興味がおありの方は、よろしければこちらの記事もどうぞ→◆花粉交配用みつばちの貸し出しの予約を承ります




参考
■奥村隆史、木村澄、渡部和夫、1992、セイヨウミツバチの飼育群における外勤蜂の群全体に占める割合 および群の移動と外勤蜂の個体数の減少、日本応用動物昆虫学会大会講演要旨(36).
■Jeroen P. van der Sluijs, Noa Simon-Delso, Dave Goulson, Lura Maxim, Jean-Marc Bonmatin, Luc P. Belzunces、2013、ネオニコチノイド系農薬 ハチの異変 花粉媒介者サービスの持続性.
■一般社団法人農協協会、2014、農業協同組合新聞【電子版】農薬の使用規制でミツバチは救われるのか http://www.jacom.or.jp/nouyaku/news/2014/03/140320-23709.php.
■国際連合食糧農業機関、2011、世界の食料ロスと食料廃棄 その規模、原因および防止策、社団法人国際農林業協働協会.
■農林水産省、2013、食品ロス削減に向けて 「もったいない」を取り戻そう!.
■養蜂レポート、2011、ミツバチ「世界の問題」になる http://youhou1.sakura.ne.jp/ecology-6unep-yhr.html.
■2009、ハチが死にゆく理由 Why are they dying? http://www.ni-japan.com/link/bee/NIJ113bee.htm、ニュー・インターナショナリスト・ジャパン.
■飛川 光治、2015、蜜だけでないミツバチのはなし、岡山県農林水産総合センター.
■2015、90億人の食 希望のミツバチ  http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/magazine/15/041900003/042000004/、ナショナルジオグラフィック日本版.
by archae88 | 2016-01-09 00:47 | ●みつばち | Comments(0)
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