キュンちゃんは7月の上旬、夏の真ん中に家にきた。
ちょうど今頃の2015年、去年のこと。

拾ったばかりの頃のキュンちゃん。
キュンちゃんは、リュウキュウアカショウビンという渡り鳥のヒナでした。
キュン、キュンって鳴くから、娘がキュンちゃんって呼びはじめました。
家に来る前、キュンちゃんは山にいた。
台風が迫っていた森の中にいた僕は、唸り声をあげている風の中に含まれていた「キュン」を聞きました。
探すと、林床の陰にうずくまっている小さな鳥のヒナを見つけました。
生まれたてってほど幼くもないけど、棘のような羽しか生えていなく、自立しようと頑張っている幼鳥にはとても見えない。
まわりには巣らしい洞もなく、ただ、親なのか、時折成鳥の声が周囲から聞こえました。
何か理由があって、そこにうずくまっているらしいのだけど。しばらく様子を見ようと、その場を離れました。
夜になって、風がいよいよ濃く低く洗うように森に吹き始めても、ヒナはそこにいました。
思いのほか元気で、少し斜面の低い位置に移動もしていました。
巣のある立枯れ木が倒壊でもしたのか、他の兄弟に巣から締め出されたのか、親が死んでやむなく巣から這い出してきたのか。
キュンキュン元気に鳴くのですが、雨も降り始めてるし、斜面の下は深い沼だしな。
この台風を生きて越えれるか。別に死んでもいいし。それが自然の摂理なら。
。。。。
うーん飼うのは大変だよ?相当食うよ。それもフレッシュな生き物だけ。
そうだな。見つけなかったことにしようか。
。。。。。。
結局、ポケットに突っこんで連れて帰りました。
かくしてキュンちゃんは、我が家に迎えられ、名前も与えられました。
キュンちゃんは想像していたよりも、大量の餌を食べました!
タイワンツチイナゴ、ショウリョウバッタ、ホオグロヤモリ、ジャンボミルワーム。。。
とにかくゴクゴク飲み込みました。
娘も妻も、僕よりもキュンちゃんを大事に世話をしました。
娘は毎日たくさんのバッタを採りに行き、妻はタイミングを見てしっかり給餌を。
キュンちゃんは応えるように大きく、綺麗な鳥に成っていきました。
何日か経つと、伸びきった棘の羽がやぶれて褐色の羽が現れた。


この頃には、妻を見ると「おなかすいた!」って(そう見える)鳴いて呼ぶようにもなりました。
さらに何日か経つと、背中から腰にかけての特徴的なあのラインが現れていました!

やがて、近所の熱帯魚専門店に、
”ぜんぜんそんな感じじゃない女の人(妻)がジャンボミルワーム
だけを買いにしげしげと通っている”
というちょっとワケありな光景が普通になってきた頃、キュンちゃんの巣立ちの時がきました。
春から夏にかけて、沖縄や日本本土で過ごしたリュウキュウアカショウビン達は、今度は東南アジア方面へ南下します。
健全なリュウキュウアカショウビンなら、この流れに従って仲間たちと南下しないと。
キュンちゃんの野生復帰を確実にするためにも、ここでリリースし仲間たちの旅団に合流させることは大きな意味があると考えました。
キュンちゃんもそれが宿命であると本能で解っているかのように、この頃、かごの中で盛んに飛び始めていたのでした。
キュンちゃんがいた場所に行きました。

最後のお別れ。

娘も、さびしいながらも折角決心したのに、鳥かごを開けても、なかなか飛んでいこうとしない。

ようやく飛んだけど、あえなく木の枝に不時着。放して大丈夫かな??
餌とれるかな。一人で生きていけるのか。
放してしばらく、僕たちはキュンちゃん用の鳴き声でそんな気持ちをキュンちゃんに問いかける。キュンちゃんもまた「キュン」と応えていました。

ためしにリュウキュウアカショウビン成鳥の鳴きまねをしてみる。
「フィッフィーー」
応えるように鳴きかえしてくる個体がいる。
キュンちゃん、飛べよ。周りに仲間がいるぞ。飛んで、南下する仲間たちの旅に加われ。ここにいてはいけない。
いつまでも見ているわけにもいかないから、ここでお別れ。
僕だけは明日、またここに様子を見に来るとして。
翌日の夕方、またキュンちゃんを放した場所に来てみました。
どこを見てもキュンちゃんの姿はなく、鳴きまねをしてみても応える者はいませんでした。
さすがにどこかにいってしまったか。
割と近くに道路あるし、ひと肌恋しくて飛び出したりして轢かれてないだろうな。
この辺カラスが多いのも恐いな。
あいつ大丈夫かな?
どこか予想していた通り、こんな別れになってしまったね。
ふいに携帯が鳴りました。
森の入り口で待っててもらっている仕事の先輩からでした。
「なんかアカショウビンが飛び出してきて、そっちの方向に飛んでったけど、来てる?」
そう言い終わるのを聞くより早く、目の前に一羽の赤い鳥が現れた。
立派なリュウキュウアカショウビンがとまっている。
キュンちゃん?違うか別の鳥か。
そしたら、「キュン」って鳴きよった。
家でやってたように、僕の方を見て、頭をクイックイッてした。
キュンちゃんだった。僕を覚えていて、飛んできたのでした。
(頭をクイックイッと揺らすような行動は、僕たちを見つけては何か言いたくて呼んでる時によくやる行動でした。)

目の前2mぐらいの距離の枝にとまって「キュン」って鳴いている。
先輩によれば、大きな毛虫をくわえていたそうです。
すごい!自分で獲物を捕ったのか!? いつも家では自分でしとめきれず、口先まで運んであげていたのに。
たった一日で逞しくなったなあ。
妻と娘が見たらどんなに感動しただろう。
2016年、夏。これから秋にかけて、沖縄はリュウキュウアカショウビンの渡りのルートの一つになります。
キュンちゃん。この声の主はお前だったりしないかな、って思いながら、この時節の帳をくわえて飛ぶものたちの気配を楽しもうかな。
※野鳥を捕獲・飼育することは「鳥獣保護法」により原則として禁止されています。
今回、やむを得ない状況であったため保護。
その後、野生動物ドクターの長嶺先生がいらっしゃる「ながみね動物クリニック」へ相談、野生復帰のタイミングなどを確認し、鳥屋の先輩方からも助言を頂きながら保護を続けました。
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