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アルカエの日々のこと

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ウロアシナガサシガメと 「 milsil(ミルシル) 」 と。

2016年11月、僕が発見したサシガメ(カメムシの仲間)を記載した論文が、動物分類学雑誌『Zootaxa(ズータクサ)』にて出版されました。
これにより、新種として記載されました。

そして今回、その新種について、日本を代表する自然科学の博物館、国立科学博物館(東京都)が発行する『自然と科学の情報誌 milsil(ミルシル) 』の中で、「News&Topics 世界の科学ニュース&おもしろニュースを10分で」の一つとして取り上げて頂きました。





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http://www.kahaku.go.jp/userguide/book/milsil_sample/milsil_vol57/default1.html

国立科学博物館発行『milsil(ミルシル)』通巻57,p.33







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*『milsil(ミルシル)』はジュンク堂書店で取り扱っているほか、県内では琉球大学博物館「風樹館」等でご覧になれます。
国立科学博物館のミュージアムショップ・会員配布、定期購読などから入手できます。






新種のサシガメ(学名:Proguithera kiinugama(プログイテラ キーヌガマ)、和名:ウロアシナガサシガメ)は、僕の住む沖縄本島からさらに南に行った、石垣島のイタジイの森の中で見つけました。

ハラビロトゲサシガメという、今回の新種とは別の種類のサシガメを探していた時のことでした。

いつものように、木が焼け焦げてしまうくらい木の幹を凝視しながら息をしていると、ふと、樹洞(ウロ)の中の底面でゆっくり歩行している、およそハラビロでない細身のサシガメを見つけました。

ああ!!!って、息がぎゅってなって、心臓がドコン!!ってなりました(こういう時にしかならない身体の現象なのでうまく言えません)。

とにかく採って!(写真なんて後。初めて見るやつほどこれが大事です。標本はその種の存在を科学的に証明する絶対的な証拠(タイプ標本など)となります。とにかく一旦捕獲します)容器に移します。
そして、もっといないか周辺をざっと見ます。
それと並行して、頭の中でざざーって、経験・読んだ文献の知識合わせて今までで知っている虫の容姿や情報と照合が始まります。
結果、「シラナイ ナニコレ?」となりました。 

な!…なにこれえ!!!と、発見からここまで約1分、ここでようやく、小声で呻くような悲鳴を漏らしました。
なんていいものを採ってしまったんだ。。!

そんな調子で、採ったその日は興奮とトキメキのあまりなかなか寝付けませんでした。
新種を見つけたかも、という嬉しさよりも、普段気にしている昆虫のグループで、「なにこれ?」って自分が知らない種を採ったという事実が、そもそも何ともいえない快感なのでした(実際、後で調べてみて新種ではなく単に知らなかったことがほとんどです)。


新種を見つけること。
一口にそう言っても、実はかなり複雑です。

僕が果たした発見(発見、♂♀個体の標本採集、生態・環境写真の撮影、発見時の虫や環境の状況の記録など)はまず第一歩であり、普通そこから先が長いのです。

そして、業界最前線の知識と高度な専門技術を要することから、プロの分類学者の領域でもあります。

見つけた虫を世界中の過去の記録(新種を記載した論文、それに用いた標本(タイプ標本))と照合し、そのグループを専門に研究している研究者がほかにいるならコンタクトを取る。
そして、専門機器を用いて標本の計測・撮影・作画をし、必要な内容を備えた論文を専門用語を含む英語で仕上げる。しかるべき専門誌に投稿し、事情に精通したレフェリーによる査読をクリアし受理される。
そして、出版を以って新種として記載される。

実際はもっと複雑で、さらに多大な苦労を伴うものだと思います。
僕が日ごろ神様のように崇めている先生方の成せるお仕事です。

かくして、未記載種は記載されて「新種を見つけた」となります。



ところで、国立科学博物館のホームページを見ると、

“milsil(ミルシル)の mil(ミル) は、「見てみる」「聞いてみる」「やってみる」の「ミル」。
そのような「ミル」から、新たな、そして豊かな sil(シル=知る) が得られるでしょう。
この雑誌と共に、皆様が楽しい「ミルシル」体験をされることを願っています。”

とありました。とっても素敵なコンセプトです。同感です!

本の内容はかなり濃密で、でも、博物館らしく分かりやすく書かれていて、厚みも程よいものだから楽しいまま読んでいけます。
そのような雑誌に取り上げて頂き光栄です。

そして、僕はひそかに「採ってみる」もお勧めします。
触ったら危険な生き物もいるので、あまり大きな声では言えませんが、
その先にある大きな知る楽しみを体験しているからです。

変に関心を持ちすぎて乱獲(*)につながるようではいけませんが、関心がなさ過ぎていなくなってしまったことに気がつかないのはもっと危ないし、さみしいです。

この夏、もし、お子さんの虫採りのお供や、友人からの釣りのお誘いなど「採ってみる」機会が巡ってきたら、あまり気がのらなくてもあえて足を向けてみてはいかがでしょうか。
採ってみて、よーく観察すると、生き物は思いもよらない表情を見せてくれます。

かならず知ることがあって、それは楽しいことだと思います!




* 野生下の個体群を無秩序に採り尽くすこと。
個人によるものだけではなく、一人ひとりの小さな採集が結果として大きな影響を与えることも含む、と僕は解釈しています。
得てして<体が小さく個体数の多い>昆虫の場合、健全なコアな生息環境が保たれている状態では、採集によって個体数を決定的に減らすこと自体、普通難しいと思いますけど(例えばホイホイや毒餌で絶滅しないゴキブリなど)。
それでも、何か虫を保護ってなったとき、虫屋が矢面に立たされるのは悲しいことです。


※画像の無断使用を禁止します。



by archae88 | 2017-07-08 23:16 | ●虫 | Comments(0)
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